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第2節―その―



 「っちゃん?……ねちゃだめ〜」

 「え……?」

 白っぽいもやもやがサッと消えて無くなると、覆い被さるように熱っぽいお母さんの顔が有った。私は、頭の回転をマックスに切り替えると、咄嗟に状況の危険を感じとり脱兎の如く逃げ出した、直後頭がぐるぐると回るような感じがし、眉間の辺りを親指でグッと押してやると少し楽になった。そのまま軽く閉じた目からお母さんの顔をみると、きょとんとした、なんとも間抜けな顔をしていた。

 「もおーみっちゃんは私の娘でしょー、お酒ぐらいちゃんと飲めないと困るわよー」

 「うぅ……気持ち悪い」

 「はい、もう一杯」

 「いらない」

 私はぐらぐらとする頭を抑えながら、時計に目をやった。時間は三十分指していた、殆ど進んでない。お母さんはもっと私にお酒を飲ませようと思ってか新しい大ジョッキを持ち出してきた。そんなもので飲まされた日には私はどうなるのだろう、危機感に差し迫られた勢いでリビングから逃げ出した。その儘、急いで部屋に戻ると、ドアの所とベランダづたいに入ってこられる窓の鍵を閉めた。

 一息つき、その手でペンと右の段の一番上の引き出しに入っているノートを取り出した。ノートには日付と時間、街の名前に起きた出来事、人、台詞、植物や動物、食べ物に至るまで事細かに書かれていた。それは私の考えすぎなのかも知れない、然し、そのことが私に何かを訴えかけているとしたら、そう考えたとき私はこのノートを作りすべてを記した。何時か私のしたことが救いになるのかもしれないと信じているから、私は英雄になりたいわけじゃない、助言者と言う立場で十分だ、だから、何時の日か英雄となる人の力になれれば良い。ノートの新しいページに覚えている限りの夢の内容を書き込んだ。何せ今日はもう三回も夢をみたのだ、普段なら一回見るごとに書くのだが、やはり調子が狂ってきているのかも知れない、油断というよりも焦りから来るミスだ。

 今回の夢は三回ともルークでの夢だった。私の夢はここ一ヶ月あまり似通った世界で起きている。一つ目は星の都ルーク。

 ルークは、この夢の中でも一番人のあふれた世界だ、兎角明けから暮れに掛けてはその活気はまさに早朝魚市場を思い出される程である城の方も、大きく、そこの王族は皆落ち着いた雰囲気と貴だかさを兼ね備えている、が、一人だけその姿は王族の者には掛け離れた、怜悧な小悪党の様をしていた。そして、しかし一旦日が暮れるとルークには厄魔と呼ばれるものが溢れかえる。厄魔とは姿も知能も何においても人間と変わりはなく、昼間に街を歩いていたとしても誰も厄魔だとは気が付きもしない程人間に似ているしかしそれは当然と言える、何故なら厄魔は人間だからだ。此処ルークには掟があり、その掟を破った者(つまりユダに値するのも)、それが厄魔と呼ばれ忌み嫌われているのだ。そして厄魔達は人を殺そうとする、人を喰って生きている、悪魔に魂を売り暗鬼になった、と云われている。そのため人は夜出歩く事はなくなり、それに伴い厄魔は掟に反する夜行動するようになったのだ。

 他に、セファンラーグ、アルステア、グライスランド、と呼ばれる国に街がある。大体が最近までに見た夢の中にあった街なのだが、一つだけ、まだ名前も知らない場所がある、それはあの少女のいる泉だ。もしかすると名前などないのかもしれないが、あの場所にちゃんとした形で行くことが出来たなら、きっと何かが起こる。それはまるでゲームのイベントの様な気さえする可笑しなものだが、そう思わせる何かがあの場所にはあった。

 あの少女の事は夢の中での方が、より多くの事を知る事が出来た。

 それは、私が何日も掛けて調べ続けた内容よりも充実し、より多くの事が分かった。少女はアルステアの極少数の民族で、シャナ族とティ族の生まれ、更に両親がハーフなので、少女はクォーターになる。年齢は十一歳、家族は皆死去したか、これから話す、渡り人と成るかして、その存在は今はもう無いのだ。そして、少女に関する事のもっとも重要なのが彼女もまた渡り人と呼ばれるものらしい事だ。私が少女について調べることができたのはこの渡り人という物に関してが多くだった。

 渡り人とは、単純に世界と世界を行き来できる者、または、行き来した者のことをいい、世界とは私がいる現世(現成世界)と夢の中の世界(夢境世界)を指す。文献の多くは、向こうから来た者の話をもとに作られた、フェアリー・テイルとして残っている。その世界をドリームワールド(the world of Positive symptom's men)と名付けていた。多くの学者は魯鈍な彼等の話をろくに聞かなかったらしい、時代によってはは彼らを疎外にし、虐殺、暴行、あまつさえ法的に認められたネクロフィリアや殺人鬼及び精神的狂人などのストレス解消先、という散散な使われ方をした。とも文献には記されていた。

 

 ノートを閉じて深く息を吐いた。時計に目を向けると丁度七時になったところで、お酒の酔いも完全に抜け、頭からくる中途半端な痛みが治っていた。お母さんはもう寝ただろうか。お酒を始めて飲んだにしては回復が早いのはやはり親譲りか。椅子から跳ね上がると、ターッと、ベッドにダイブする、その儘、うつ伏せになりあリったけの息をゆっくりと吐き出した。

 今日はこれからどうしようか、友達の家は帰省だのなんだので誰も居ない、あまつさえ私の行動範囲にこんな暮れの時期に律儀に商売をするところなど無いうえに、時間を潰せる唯一の場所といっても過言でない図書館(実は一番の娯楽施設で、村の中の村であるこの村は他に時間を潰せる場所など無い、――古惚けた商店街でのウインドーショッピングならありだが)もやっていない。そんなことをやってると心地よい眠りが染み渡ってくる、このまま寝るのもいいかもしれない。

  あっ、でも。

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