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第3節―こと―



 時計を見ると六時半を指していて、外からカーテンの合間を縫って日差しが差し込み、その日差しの中の散り散りの物が、黄砂に見えた気がした。私は起き上がった。いつもやるように、体中の筋肉を伸ばすためなのか、グッと背伸びをするようにして両手を天井に向けて引っ張った。そうやると、体中が目覚めた、という気になった気がするのだ。今日の予定は特には無いが、年の締めくくり、寝てばかりと言うにはもったいないと思われた。しかし、出掛けるにも目的地も、それに似合う予算も無いのが現状、むなしいものだ。そんのこんなと考えながらパジャマを捨てながら廊下を渡って脱衣所に入ると下着も捨ててお風呂場へと入った。名ばかりのお風呂場は、和の雰囲気など無く、どちらかと言うとホテルのガラス張りのシャワールームと言った所だ。入って直に私は自分の体を敵意に満ちた目で睨み付けた長く艶やかな髪、整った木目細かな顔、か細い体の線、大きく膨らんだ曲線美豊かな胸、やわらかくしなやかな体つき、細くくびれた腰、ふくらみの有る引き締まったお尻、すっらとした長い足。他人に言わせれば美人らしく、何度となくラブレターやらスカウトやらが来た。それでも私はこの姿が嫌いだ、女という事実が憎くすらある。私が一人暮らしをするときは家には鏡など置かない、そう堅く決意している。小さく握りこぶしを作り気合を入れた。ノブをひねり、シャワーを出した。シャワーは額からあごにかけて当たり、体を流れ足をたどって下に流れ尽きた。

 すると本来黒く靡く髪や、深い黒色をした瞳に異変が生ずる。髪は薄く茶色見がかり、瞳は深い青色を際立たせる。医者の口には光のあたり方なのか熱に反応するのか、とにかくシャワーを浴びたり日光浴などをしていると、こうして薄く茶色くなり瞳は深い青色になるらしい。

 実はこうなった時の私は自分が好きだ、多分私が私でなくなったかのように見えるからだろう。

 僅か十分たらずのシャワータイムを終え脱衣所に出ると、それと同時に玄関の開く音がした。多分お母さんだろう、お母さんは仕事の関係上朝帰ることが多い、それと一緒に酒の匂いがついてくる。私は嫌いではないが、時折店の酒を持ってきては、私に勧めることも暫し在ったりもしたが対外は勝手に話を進め結局自分で一升瓶を空けて寝入ってしまうのだ、そして、私の直感が正しければ、お母さんは今日も酒を持って来ている。此処の所毎日持ってきているのだ。私はひとしきり体を拭き終えると、下着をはきジーパンにティーシャツを着てその上にパーカのついた少し大きめのトレーナーを着た。いつもこんな格好なのだが、酔っていないときのお母さんはそんな格好をしている私に決まって、ブラをしなさい、もう少し女の子らしい格好をしなさい、ととやかく言うのだ。正直な所どっちもお断りだ、ブラをする自分の姿を目にした日、本当に嫌になったのを今でも覚えているし、女の子らしい格好など思いつきもしない。

 私がお母さんの前に立ったときには、彼女は完全に出来上がっていた。

 「ん〜?みっちゃんだ〜、おはよ〜」

 むにゃむにゃと眠そうにコップを口に運んだ。私の名前が瑞希だからみっちゃんらしい、友達も大体はそう呼ぶ。時計に目を向けると三十五分を指していた。意外なほど早く上がっていたらしい。

 「みっちゃんも一緒に飲も〜、おいいしいよ〜」

 「いらない」

 「え〜、今日は飲みなさ〜い」

 「あまり飲みすぎると体に悪いよ?」

 「飲もおよ〜」

 「はいはい、――もう、お店からこんなに持ってきちゃって」

 「お母さんと一緒に飲んでー」

 「はいはい、そこどいて、――もう、こんなに散らかして」

 「ね〜、注いで上げるから」

 「いいって。――そこの箱とって」

 「はい。――ね、ね?飲む飲む?」

 「お店に返せるのは返さないと。お母さんの飲みすぎだよ、――あぁ!もう半分も無いじゃない!」

 「お酒飲むのー」

 「あぁ、もう!これじゃ赤字になるよ?」

 「今日だけでいいの、一口でいいから」

 「いらないって」

 「みずき、」

 「え?」

 一瞬お母さんの顔から酔いが抜け、真剣な眼差しが垣間見た。

 「も〜こーこうせいなんだから、おさけぐらいのめなくちゃね〜」

 その一瞬は本当に一瞬で、何時ものお母さんに戻ったのだった。

 私は呆れつつ、お母さんがあまり飲み過ぎないよう、出しっぱなしになっている一升瓶を三本箱に仕舞い直し、隠すように棚の奥にしまった。出しておくと間違いなく飲んでしまうからだ。(然し、これ程の量を一人で普通の飲める物か、信じ難い)、まぁこれでもぐうたらでないだけましだ、と思いながら戸棚を閉めた。ため息交じりの息を吐きながら振り返った、と、その瞬間その頭上いっぱいにお母さんの顔がアップになって覆い被さってきた、私は慌てて後ろに下がろうとしたがその拍子に踵とアキレス腱との間あたりを戸棚の出っ張ったに思いっきり打ち付けてしまった、意も言われぬ痛みで眉間に皺がよるほど目を塞ぎ、顎がギシギシ言うくらい歯を食いしばった、その瞬間、覆い被さっていたお母さんの顔が私に急接近し、私はもう一度逃げ出そうと思い立った瞬間、あまりにも濃厚なキスがきた。私は混乱と痛みとで、目がぐるぐると泳いでいる中、お母さんは口の中いっぱいに入れていたのだろう、無理やり口移しで私に飲ませてきた。あまりに濃厚なキスと初めての飲む日本酒が私の体からあらゆる物を剥ぎ取ってしまった。

 「はい、お〜しまい、お酒おいしかった〜?」

 そんな声が頭のに響いた

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