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そして、そうした賑わいは時分を朝に変える頃、徐々に城下を抜け城へと駆け上る。 始めは小さな流れ、それが次第に大きくなり、数分もした今は城に向かう公道は城下の者で満たされていた。その中の誰もが皆楽しげに笑い、口々に、新たな騎士はだれか神官はだれか、とお互いの意見を投げあい、こうでもないああでもない、と言っていた。 城下の者の多くはそうやって城に向かった。(こそ泥や小汚い商人共はこの隙に盗みをする) 私は一人のこそ泥に付く事になったらしい。 何度も思うが、悪霊のようだ、と思った。 こそ泥は、なりこそ黒地の装束に、顔を覆う程の黒頭巾をし、腰には長さの違う二本の刀剣に斧までも携えているはいるものの、男にしては小柄で線が細く、とても刀剣やら斧やらを扱うには似つかわしくない体つきに思えた。その者はある程度大きな民家を狙い、そこから僅かな食料と衣類を掠め盗ると次の民家へと渡って行った。何故か、婦女子の衣類のみを掠めるのは趣味のたか。そうして五・六件回る頃にはその者の荷物は、自身の二周りほどになっていた。その頃には城下の者の行列はあらかた収まりを見せていた。これからこの者も城に出向くのだ。この者は民家の屋根に登るとまるで宙を飛ぶ猫の様に飛躍した。下の路地にも同じくして、こそ泥が見える。その者達でさえこの者を見ると皆一様に頬を緩ませ卑しげに叫んでいた。 女郎がでたぞ、と。 女郎と呼ばれたものは、身軽な動きで城下の果てにある小さな社に忍び込んだ。格子を外して中に入ると、途端に古い木の独特の匂いが鼻をついたが、そんな事は気にしていないのか、その者は急いで奥へと向かった。外観より意外と奥が深く、西からの日取りだけでは奥まで光が届かない様だった。 端まで来ると次にその者は壁を二・三叩き、一気に押した。するとそこだけが奥に沈み横に壁が回転し、更なる奥への道となった。奥への道の直ぐ先には、光の無い沈んだ穴が開いていた。すかさず松明を取り出し火をつけてやると、そこが螺旋状の階段になっていることが分かった。そこを降りると、また奥へと歩き始めた。螺旋階段を下りた先から考えるに、この上が先ほどまでたどってきた社の本道なのだろう、この者は松明を片手に暫し歩くと小さな戸のあるところまで来た。その戸を開け、四方の隅に松明の炎を燈火に移した。ある程度勘付いてはいたが、此処はこの者の隠れ家なのだろう、部屋には無残に投げ出された掛け軸や壷なんかが有った。 不意に、私は投げ捨てられた黒い服に焦った。なにやら着替えを始めたのだ、しかし翌々考えれば焦る必要も無いのだ。男の着替えを見たくない気はするが。しかし、私は浅はかであった、彼は彼女であった。私が焦り、困惑していると、彼女は何かに打たれたかのように私のほうを見た。一瞬の期待の念など直ぐにかき消され、それ以上に彼女の目に恐怖を感じた。蛇ににらまれるとはこの事を言うのだろう、腕で火花が弾け、背筋に氷が走る。 「出て来い」 深く淀みの無い刺すような声。 私は体中を雷撃のごとく突き刺された気さえした。 が、それが私に向けられたものでないと気が付いた。彼女の目は鋭く深い闇の先を睨みつけている。その先に何かが居るかのように。女のほうは目を向けたまま刀剣を抜き身構えた。もう一度女が口を開こうとしたとき、奥から七・八人の影が薄らと見えた。その一人一人の顔が見えるぐらいの距離になると、戸を挟んで対局する両陣の緊張とあざ笑う姿が目にはっきりと見えた。女は神経の細部までもが緊張し威嚇と好戦的な姿を築いてはいるが、一方の男衆はまさに弱者をあざ笑う者の姿だった。それだけでも女が不利なのだと思った。私の思った通り、女はにじり寄る男衆から後退するしか手が無いように見えた。しかし、それら全ての要素が罠であり、此処が彼女の隠れ家なのだ。彼女が部屋の端にまで追いやられ、逃げる道が無くなった。 そこで、女は笑った。 口元に微かに笑みを浮かべたのだ。 そして言い放った。 「土足で私の縄張りを踏み荒らしたんだ、命の保障はしないよ」 その言葉に男衆は笑った。ほんの一瞬。 唖然とした光景の後、女はまた平然と着替えの続きをした。私は何が起きたのか訳がわからなかった、男衆とともに部屋の中にあった乱雑に散らかされていたものすら消えている、一瞬にして消し去られたのだ。否、正確にはそれら凡ての物が完全に見えなくなるほどに切り刻まれた、と言ったほうが理に適う。それを思わせる様に、微かに血の臭いが漂っている。 平然と女は着替えを済まし、紅を塗るなど、化粧を施すと、その姿はまさに高貴なる者の身なりだった。そんな姿を見ながらも、私はばれたらどうなるのかが気が気でなかったのが正直なところだ。 女は、おそらく来た道とは違うであろう道を行った。その道は恐ろしく長く、時折水の音が微かにした。暗い闇に伏した道を五分ほど進むと、松明の光とは違うもっと強い光が差し込んでいた。 そこに付いたとき私は鈍い痛みを感じ目を覚ました。 そのときになってあれは夢だと認識され、痛みの正体が右腕の痺れが原因だと気付いた。 |
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